生活習慣病

メタボリックシンドローム

肥満には皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満があります。皮下脂肪型肥満は腰やお尻といった 下半身に脂肪が蓄積する肥満で、「洋なし型肥満」とも呼ばれます。内臓脂肪型肥満は、内臓の周りに脂肪が蓄積する肥満で、腹囲が大きくなるため「りんご型肥満」とも呼ばれます。メタボリックシンドロームで問題となるのは内臓脂肪型肥満で、さまざまな病気をひき起こします。
内臓肥満に加え糖代謝異常・脂質代謝異常・高血圧のうち2つ以上を併せもった状態を「メタボリック シンドローム」といいます 。

メタボリックシンドロームの診断基準

必須項目ウエスト周囲径男性≧ 85㎝
女性≧ 90㎝
内臓脂肪面積 男女ともに≧100㎝2に相当
選択項目

3項目のうち
2項目以上
高トリグリセリド血症
かつ/または
低HDLコレステロール血症
≧150㎎/dl

<40 mg/dl
収縮期血圧
かつ/または
拡張期血圧
≧130 mmHg

≧85 mmHg
空腹時高血糖≧110㎎/dl

糖尿病、脂質異常症、高血圧はそれぞれ単独でも動脈硬化の危険因子ですが、これらが重複するメタボリックシンドロー ムでは、動脈硬化が強く促進されることがわかっています。 メタボリックシンドロームの予防および治療には、内臓脂肪を減らすことがもっとも重要です。
日本肥満学会では、3〜6か月で現在の体重から3%の減量を目標とすることをすすめています。3%程度の体重減少でも血圧の低下や血糖の低下、コレステロール値の低下などの改善が得られます。
対策としては、食事療法と運動療法といった生活習慣の改善が中心となります。

食事療法、運動療法でも改善が得られない場合は下記のような内服治療の必要があります。高血圧症、脂質異常症の治療は自覚症状がないため治療を中断する方がいますが、動脈硬化の予防のために毎日きちんと内服することが重要となります。

高血圧症

高血圧症の診断基準と治療目標

高血圧の基準は診察室血圧が140/90mmHg(家庭血圧135/85 mmHg)となっております。
糖尿病患者における高血圧の頻度は、非糖尿病患者に比べて約2倍高く、逆に高血圧の患者においても2型糖尿病の発症頻度は約2〜3倍高いと報告されています。糖尿病と高血圧はいずれも脳卒中や心疾患の原因となります。糖尿病と高血圧症が合併すると脳血管障害や冠動脈疾患の発症頻度が大きく増加することから、糖尿病に合併した高血圧の患者では血圧の厳格な管理が重要と考えられています。このため、通常高血圧の基準値は診察室血圧で 140/90mmHとされていますが、糖尿病患者では130/80mmHg未満( 家庭血圧では 125/75mmHg 未満)が降圧目標値となっています。

高齢者では原則、高齢者における降圧目標値(65〜74 歳では 130/80mmHg 未満、75 歳以上で は 140/90mmHg 未満)を目指します。

降圧目標(高血圧治療ガイドライン2019より)

糖尿病130/80 mmHg未満
慢性腎臓病130/80 mmHg未満
75歳未満130/80 mmHg未満
75歳以上140/90 mmHg未満

食事療法

血圧をコントロールするためには塩分の摂取量をへらすことも肝心です。2020年1月に発表された厚生労働省による国民健康調査によると、日本人の1日平均塩分摂取量は男性11g女性9.3gとされ塩分摂取量が多いことが知られています。
しかし健康な成人男性の目標値は 8.0g 未満、健康な成人女性の目標値は 7.0g 未満とされています。また高血圧の予防と治療の目標値は 6.0g 未満ですので、1 食の食塩量は 2g を目標とするとよいでしょう。

運動療法

運動療法としては、有酸素運動がすすめられていますが、それに加えて筋力トレーニングやストレッチの実施も有用です。ややきつい程度の強さの運動を、少なくとも10分以上、1 日合計 30 分以上の実施が目標となります。

降圧薬の種類について

  • ACE阻害薬・ARB
    肝臓でアンジオテンシンノーゲンが産生され、腎臓で産生されるレニンによりアンジオテンシンIに変換されます。次に肺で産生されるアンジオテンシン変換酵素(ACE)により、AⅡに変換されます。AⅡは強力な血管収縮作用をもち、心筋肥大や繊維化を引き起こします。ACE阻害薬・ARBはこれらの経路を阻害し、血管拡張による降圧作用、腎臓で輸出細動脈を拡張し、子宮体濾過圧低下による腎保護作用、心筋肥大・線維化防止による心保護作用を発揮します。
  • カルシウム拮抗薬
    カルシウム拮抗薬は血管平滑筋細胞内へのCaの流入を抑制し、血管平滑筋を弛緩させることで血圧を下げます。ニフェジピン(商品名:アダラート)、シルニジピン(商品名:アテレック)、アムロジピンべシル酸塩(商品名:アムロジン、ノルバスク)、アゼルニジピン(商品名:カルブロック)などの薬があります。
  • 利尿薬
    利尿剤は尿量、尿中Na排泄を増加させ、過剰になった体液量の補正に用いられます。
    頻度が高い副作用としてはループ利尿剤・サイアザイド系利尿剤による低カリウム血症があげられます。
    フロセミド(商品名:ラシックス)、スピロノラクトン(商品名:アルダクトン)、エプレレレノン(商品名:セララ)、トリクロルメチアシド(商品名:フルイトラン)などの薬があります。

脂質異常症

脂質異常症の診断基準と治療目標

脂質異常症は、高血圧症と同様に動脈硬化をおこし、心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こします。血液中のどの脂肪分が多いかで「高LDLコレステロール血症」と「高トリグリセライド(中性脂肪)血症」 などにタイプ分類され、基準を下記の表に示します。

診断基準

LDLコレステロール
(悪玉コレステロール)
140㎎/dl以上高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール
(善玉コレステロール)
40㎎/dl未満低HDLコレステロール血症
トリグリセライド
(中性脂肪)
150㎎/dl以上高トリグリセライド血症


脂質異常症の目標値ですが、個々の患者さんの年齢、性別、危険因子の数や程度で変わります。危険因子としては、糖尿病、非心原性脳梗塞、慢性腎臓病、末梢動脈疾患があれば高リスクとして分類され、そのほか喫煙、コレステロール値、収縮期血圧、年齢、性別、低HDLコレステロール血症、耐糖能異常、早発性冠動脈疾患の家族歴によりリスク分類を行います。

糖尿病は動脈硬化を起こしやすい脂質異常をとることが多く、高中性脂肪、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症になりやすいです。糖尿病のある方は一次予防では120㎎/dl、冠動脈疾患の既往がある2次予防では100㎎/dl以下、家族性高コレステロールや急性冠症候群、糖尿病でも高リスク病態(非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、慢性腎臓病、メタボリックシンドローム、喫煙)を合併している場合は70㎎/dl未満を目指してのコントロールが推奨されます。

LDL-CHDL-C中性脂肪
低リスク<160≧40<150
中リスク<140
高リスク<120
冠動脈疾患の既往<100(<70)
※日本動脈硬化学会 「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017」より

食事療法

LDLコレステロールの高値の原因として、第一に食事中の飽和脂肪酸のとりすぎがあげられます。飽和脂肪酸は、肉の脂身・バターやラード・生クリームなどに多く含まれます。パームヤシやカカオの油脂、インスタントラーメンなど加工食品にも含まれています。一般的には、冷蔵庫の中で固まっている油脂は、飽和脂肪酸の多い油脂であることが多く、サラダ油や魚油のような液体の油は、不飽和脂肪酸の多い油脂であることが多くなっています。また食事中のコレステロールもLDLコレステロールを高くします。食事中のコレステロールは、主に鶏卵の黄身や魚卵から摂取されます。まずは飽和脂肪酸、LDLコレステロールを制限して頂きますが、残念ながらLDLコレステロールに対する食事療法の効果は限定的であり5~10%程度の低下にとどまるとされており、血液検査でLDLが極度に高値であるときには早期の内服治療をお勧めしております。

次にトリグリセライド(中性脂肪)の高値の要因としては、エネルギー量のとりすぎ、特に甘いものや酒・油もの・果物など糖質のとりすぎがあげられます。砂糖の入ったソフトドリンクを飲む習慣のある人も多い傾向があります。これらを改めて運動や減量を行うことで、中性脂肪を下げることができます。また背の青い魚に多く含まれるn-3系(ω-3系)多価不飽和脂肪酸には、トリグリセライド(中性脂肪)を下げる働きがあります。

HDLコレステロールの低値はトリグリセライド(中性脂肪)の高値と連動することが多く、その要因は、肥満や喫煙・運動不足です。運動や減量・禁煙によりHDLコレステロールの上昇が見込まれます。

運動療法

運動療法は血糖、血圧を低下させるのみではなく、脂質異常症を改善させる作用もあります。脂質は体を動かす際のエネルギー源として蓄えられているため、運動をすることで消費されます。その結果、血液中の中性脂肪を減少させ、 LDLコレステロールを改善することができます。また、HDL コレステロールに対しては運動で増やすことが可能です。
1 日合計 30 分以上の有酸素運動が推奨されています。

高脂血症の治療薬について

スタチン系

肝臓でのコレステロール合成を抑制することで悪玉コレステロールを低下させます。高脂血症の第一選択薬となります。 副作用としては極まれに横紋筋融解症を起こすことがあり、倦怠感、手足の筋肉痛、赤褐色の尿(ミオグ ロビン尿)を認めたときは内服を中止しご相談ください。
アトルバスタチンカルシウム水和物(商品名:リピトール)、ピタバスタチンカルシウム (商品名:リバロ)、シンバスタチン(商品名:リポバス)、プラバスタチンナトリウム(商品名:メバロチン)、 ロスバスタチンカルシウム(商品名:クレストール)などの薬があります。

フィブラート系

副作用としてはスタチンと同様に極まれに横紋筋融解症を起こすことがあり、上記のような症状を認めたときは内服を中止しご相談ください。
ベザフィブラート(商品名:ベザトール)、フェノフィブラート(商品名:トライコア、リピディル)、ペマフィブラート(商品名:パルモディア)などの薬があります。

多価値不飽和脂肪酸

空腹時に内服すると吸収が悪くなるため食直後に内服します。
中性脂肪を低下させる効果に加えて抗血小板作用があるため、抗凝固薬や抗血小板薬を併用している場合は出血に注意する必要があります。イコサペント酸エチル (商品名:エパデールS)、オメガ-3脂肪酸エチル(商品名:ロトリガ)などの薬があります。

小腸コレステロールトランスポーター阻害薬

小腸からの吸収を抑制し血中のコレステロールを低下させます。スタチンでは効果が不十分な場合に追加で使用することがあります。副作用としてはまれに下痢などの消化器症状があります。エゼチミブ (商品名:ゼチーア)があります。

PCDK9阻害薬

心血管イベントの発現リスクが高く、スタチンを最大量使用しても効果不十分な重症の高コレステロール血症やスタチン製剤の治療が適さない方が適応となります。LDLコレステロール受容体の分解を抑えることで、スタチンの効果が増強し、強力なLDLコレステロール低下作用を期待できます。
通常、2週間に 1回、もしくは4週間に1回皮下投与します。
エボロクマブ (商品名:レパーサ皮下注シリンジ、レパーサ皮下注ペン)
アリロクマブ(商品名:プラルエント)

高尿酸血症・痛風

高尿酸血症の診断基準と治療目標

高尿酸血症とは、血清尿酸値が高い状態を指します。高尿酸血症は、飲酒、肥満や食生活などの影響を受けます。近年著しく増加し、成人男性の約20%に認められます。一方で、他の生活習慣病に比較し遺伝因子の影 響も強く受け、ABCG2などの関連する遺伝子が 同定されています。
高尿酸血症が持続することにより、関節や腎・ 尿路系などに尿酸が析出・沈着し、痛風、尿路結石や腎障害の発症の危険性があり独立した動脈硬化の危険因子とされています。
7.0mg/dL 以上の血清尿酸値を高尿酸血症と定義することが多いです。血清尿酸値が高くなればなるほど痛風を発症しやすくなることから、痛風の症状がある場合は生活習慣の是正を行った上で薬物治療の適応となります。
腎障害、尿路結石などの合併症をもつ場合は症状がなくても血清尿酸値8.0以上で治療適応となります。また合併症がなくとも血清尿酸値9.0mg/dL以上では治療適応となります。

食事療法

飲酒は尿酸の産生量を増加させ、また尿中への尿酸排泄を抑制し、血清尿酸値を上昇させます。またアルコールの利尿作用により脱水傾向になり、脱水は血清尿酸値を上昇させます。  アルコール飲料の中で、ビールは他のアルコール飲料よりも十倍以上プリン体という尿酸の材料を多く含むため、とくに血清尿酸値上昇作用が強いことが知られています。そのため飲酒量を減らすことが重要となります。
肥満がある場合、減量が重要となり、摂取カロリーを適正範囲内にすること、また運動療法などにより消費カロリーを増やしていく必要があります。

高尿酸血症の治療薬について

尿酸生成抑制薬

尿酸の前駆物質のキサンチンが尿酸に変化するときに作用する キサンチンオキシダーゼという酵素の作用を阻害することで尿酸産生を低下させます。
中等度以上の腎障害が存在する場合や尿路結石がある場合の第一選択薬となっています。
アロプリノール(商品名:ザイロリック)、フェブキソスタット(商品名:フェブリク)、トピロキソスタット(商品名:ウリアデック)の3種類があります。

尿酸排泄促進薬

尿細管において尿酸の再吸収を抑制し尿中への排泄を促します。内服により尿路結石が起こることがあるため尿路結石がある場合は使用しません。劇症肝炎などの重篤な肝障害を引き起こす可能性があるため少なくとも投与開始後6カ月は定期的に肝機能検査を行います.
ベンズフロマロン(商品名:ユリノーム)、プロベネシド(商品名:ベネシッド)、ブコローム(商品名:パラミヂン)、新薬としてドチヌラド(商品名:ユリス)があります。